お菓子と麦酒 (角川文庫)

お菓子と麦酒 (角川文庫)

面白かった! 「お菓子と麦酒」「月と6ペンス」しゃれたタイトルに新潮文庫のグリーンの小粋な装丁のイメージから、いつか読んでみたいと思っていたモームの作品をやっと読むことができた。某所の読書会のおかげ。

最初のほうは話が進まないのでちょっとつらかったけど、後半は生き生きした筆致で面白くてどんどん読めた。物語の中の私を通してモームが語る文壇や批評家作家を取り巻く人々に向けるシニカルな視線、一人称でこの作品を書いたことへのちょっとした後悔、モーム自身が自由に楽しんで書いた気がする作品。

私が若い時に恋をするロウジーは女の私からすると魅力的には見えないんだけど、近寄りがたい美人じゃなくて可愛らしくて情に熱い、ある意味男の人の理想のような女性なのかなと思いつつ読んだ。 でもラストで子供にまつわるロウジーの中の秘めた悲しみと、一緒に逃げて添い遂げたジョージへの思いが描かれたことによって、モームが表現したかった人間の奥深さが少し理解できた気がした。

他の作品も読んでみたいなぁ。

初夜 (新潮クレスト・ブックス)

初夜 (新潮クレスト・ブックス)

「ずっと二人で歩いて行けたかもしれない。あの夜の出来事さえなければ。」


背表紙のこの一文が気になっていたところに桜庭一樹さんの読書日記のマキューアンに触れた記述を読んだらどうしても読みたくなってあわてて買って読んだ。

些細な出来事が(この二人にとっては些細なことではないわけだけど)起こったために、すべてがずれて崩れてしまうというようなことは悲しいけれど良くあることだと思う。でもそのずれが起こる瞬間を冷静に、でも丹念に皮膚感覚で理解できるくらいに描写して読ませる小説はそうそうないと思う。「初夜」に二人に何が起こったか…どうしても読者は下世話な興味を抱いてしまう。それを十分理解していながらこういうテーマで小説を書き、それが人間の愚かさ、おかしみ、人生での一瞬のきらめきを表現したすばらしい作品に仕上がっているのだから、マキューアンはすごい作家なのだ。

すごいんだけどどこかちょっと奇妙で、でも癖になりそうな作家。とりあえず積んでる「贖罪」も早めに読みたい。

リヴァトン館

リヴァトン館

一週間以上かかって読んだ。つまらなかったわけではないんだけど中盤までなかなか乗れなかった。最初のほうは登場人物が説明なしに出てくるので(登場人物一覧表が付いているのに気がつかなかった私も間抜けなんだけど)、何度も元に戻って読んだということもあるかな。

現在98歳になったグレイスがリヴァトン館でメイドとして働いていた頃を振り返る。リヴァトン館で起こった悲劇の真相、グレイスの出生の秘密。そんな魅力的な謎を仄めかしつつ進んでいくストーリー。小さな伏線と華やかな貴族の暮らし、使用人の暮らし、リヴァトン館の魅力的なお嬢様たちの暮らしが描かれる。戦争の影がちらつき始め少女たちが大人になり物語が大きく動き出す。

全体に当時の様子やグレイスの心理が良く描かれていたけれど、冗長な感じはどうしてもするかな。あと登場人物もすべてに名前を持たせないでもっとすっきりシンプルにしてしまったほうが良かったような気がする。とくに現代のパートでは。お嬢様であるハンナとエメリンについては、グレイスからの視点であるということと事件へのかかわりという面からハンナが中心になるのはしょうがないけれど、エメリンの心理描写が少ないために最後の事件がやや唐突な感じがしてしまった。グレイスの出生の秘密の扱われ方もちょっと軽いよなぁ。

華やかな貴族の生活、使用人たちの様子、当時の芸術、事件の真相、現代のグレイスの周辺のこと、いろいろ盛り込み過ぎてそれぞれのエピソードが平板になってしまったように思える。

なんか文句ばかり書いているようだけど、貴族社会の描写もメイドたちの生き生きした様子も、とても素敵に描かれていたので十分楽しんだんだけどね。

引用メモ。

裏表のあるキャラクター。記憶は信用にならないこと、偏向した歴史としての性格を帯びること、謎と目に見えないもの、告白的な語り、伏線の張られたテクスト。こうしたことに関心をもち、ほかの作品も読みたいという読者のために、以下に例を示しておく。トマス・H・クック『緋色の記憶』、A・S・バイアット『抱擁』、マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』、モーラ・ジョス『夢の破片』、バーバラ・ヴァイン『死との抱擁』。

お好みの本、入荷しました (桜庭一樹読書日記)

お好みの本、入荷しました (桜庭一樹読書日記)

実は桜庭一樹さんの小説は一冊も読んだことがないんだけど、この読書日記シリーズは大好き!第3段が出たので喜び勇んで読んだよ。やっぱり今回も面白かった!
桜庭さんの周辺には本読みの編集者さんがたくさんいて、常にお薦めの本の情報が入って来る。桜庭さんは毎日1〜3冊の本を読んでいるというのに、それでもまた読んでいない名作が存在するなんて、本の森はとてつもなく広いんだなぁと思う。
桜庭さんはとにかく本を紹介するのが上手なので、とにかくどれもこれも読みたくなってしまう!海外作品が多くて絶版の本も多いけど。でもそんな本を作家権限で復刊させたりしてくれているのもすごく嬉しい。
それから読みたい本があると、とにかく書店へ行って本を探すところが好き。私もなるべくリアル書店で買い物しよう!と言いつつ、ついついamazonで買っちゃうんだけど。リアル書店がこれ以上減っちゃったら悲しいしな。

大人のための残酷童話 (新潮文庫)

大人のための残酷童話 (新潮文庫)

ブラックで面白かった。倉橋さんには他にもこの系統の著書があるみたいなので読んでみよう。

ヘレン・ミレンの抑えた演技が光っている。エリザベス女王にそっくり。女王というのはどこまでも孤高の存在なんだなと感じた。ブレアもチャールズも本物に似せてユーモラスな演技をしているんだけど、ちょっと大げさな感じなので、ヘレン・ミレン演じる女王とミスマッチかなという気もした。それがユーモアだと言われればそうなのかもしれないけど。

やんごとなき読者

やんごとなき読者

この本大好き!久しぶりに本当に面白い本を読んだと感じた。イギリス風ユーモアと読書の喜びが見事に混ざり合って、素晴らしい小説になっている。