初夜 (新潮クレスト・ブックス)

初夜 (新潮クレスト・ブックス)

「ずっと二人で歩いて行けたかもしれない。あの夜の出来事さえなければ。」


背表紙のこの一文が気になっていたところに桜庭一樹さんの読書日記のマキューアンに触れた記述を読んだらどうしても読みたくなってあわてて買って読んだ。

些細な出来事が(この二人にとっては些細なことではないわけだけど)起こったために、すべてがずれて崩れてしまうというようなことは悲しいけれど良くあることだと思う。でもそのずれが起こる瞬間を冷静に、でも丹念に皮膚感覚で理解できるくらいに描写して読ませる小説はそうそうないと思う。「初夜」に二人に何が起こったか…どうしても読者は下世話な興味を抱いてしまう。それを十分理解していながらこういうテーマで小説を書き、それが人間の愚かさ、おかしみ、人生での一瞬のきらめきを表現したすばらしい作品に仕上がっているのだから、マキューアンはすごい作家なのだ。

すごいんだけどどこかちょっと奇妙で、でも癖になりそうな作家。とりあえず積んでる「贖罪」も早めに読みたい。