クリスマス・ストーリーズ

クリスマス・ストーリーズ

クリスマスどころか新年もとっくに明けて節分を迎えようとしている時期にこんな本を読んでおります・・・。図書館で借りておいてそんな文句は言えませんね。で、結果的には図書館で借りるくらいでちょうどよかったかなという感じ。

セブンティーン」奥田英朗
「クリスマスイブに友達の家に泊まる」と嘘をついて彼と過ごそうと画策する高校生の娘を前に、あれこれと思いを巡らせる母。上手いなぁ。誰にでもありそうな経験をうまく物語にしている。あのころの私を母はこんな風に見ていたのかな。私の嘘なんてきっとすべてお見通しだったんだろうな。そして嬢も大きくなったら私に同じような嘘をつくようになる。その頃の私はどんな風に嬢に接するようになるんだろう。

「クラスメイト」角田光代
離婚を目前にした男と女。大人になり切れない男と女の気持ちの行き違いと別れを描く。ちょっとかなしいクリスマスプレゼント。それでもなぜか後に残るものはあたたかい。うーん、角ちゃんも上手い!

「わたしがわたしであるための」大崎善生
不倫の恋に破れた女が列車に乗ってあてもない旅に出る(もちろん北に向かっております)。これだけでも「うざっ」と思う設定なのにそこで出会う男がさ、あまりにもベタで書くのも恥ずかしい。おまけに凝ろうとして硬めに書いた文章のせいで物語りに全く入り込めない。24才の女が語り手なのにハードボイルドみたいなんだもん。上っ面だけをなぞったような印象の短篇

「雪の冬に帰る」島本理生
中距離恋愛の恋人同士のちょっとした行き違い。あー、私は理生ちゃん贔屓なのであまり細かいことは言いたくはないんだけどさ、文章が下手になってない?というか、上達してないのかな?ストーリーとか登場人物の不器用な感じとか全体に流れてる空気とかはいいのよ。むしろ大好きなのよ。でももう少し文章も上手くならないとこれから厳しいんじゃないかな。特に最初の一文は大事だと思うんだよね。この短篇の最初の一文を読んだら、そのあと私は赤ペン先生状態になっちゃった。別に私は文法とか得意じゃないんだけど、読みやすいというか、いい意味で引っかからない文章ってあると思うんだよね。最初の一文がどんなだったかって言うと、こう。

最近、妙に疲れるのは仕事が忙しいせいにしていたけれど、本当は違うのかもしれない。

「妙に疲れるのは仕事が忙しいせいだと思っていたけれど、」か「妙に疲れるのを仕事のせいにしていたけれど、」かなぁと思うんだけど、どう?

「二人のルール」盛田隆二
不倫カップルのクリスマス。ま、いいんじゃないですか、幸せなら。こんなに都合のいい女の子はそうそういませんよ。一時的にそういう気持ちになることはあるかもしれないけどね。その辺が男性作家の書く女性像の限界かもしれません。

「ハッピー・クリスマス・ヨーコ」蓮見圭一
恋人同士の時のことって結婚すると忘れちゃうんだよな、今日はクリスマスだからちょっと思い出してみましょうか、みたいな。最初のほうでこの短篇のちょっとした仕掛けみたいなものには気がついちゃうんで、あとは長くて読むのがツライです。何の興味も抱いていない相手の思い出話を聞かされるほど暇じゃないってことで。


最初の2編が飛びぬけて上手い。二人ともだてに直木賞作家やってませんって感じですね。それにしてもクリスマスってイエス・キリストの誕生日じゃなかったっけ?いったいいつからカップルの日になったんだろうね。そのあたりでもうちょっと変わった視点の物語があってもよかったんじゃないかな。奥田英朗はその点でも上手いと思う。