新潮文庫「白い巨塔 全5巻セット」

新潮文庫「白い巨塔 全5巻セット」

大学病院の実態と医療裁判を題材にとり、
人間の生命の尊厳と二人の男の対照的生き方を描いた社会派小説。

40年も前に書かれた作品だけれど、全然古臭さを感じさせない。
医療技術においては、化学療法も始まったばかり腫瘍マーカーも細胞診も
確立された診断法ではないという時代。
それらの時代を感じさせる要素がたくさんあっても、
人間の本質というのはそう変わらないと思わずにはいられない説得力がある。

私自身、私立の大学病院に3年ほど勤めたことがあるけれど、
やっぱり教授の前では卑屈なほどの腰の低さを保っている医者というのはいたし、
退官前で腕が鈍っているにもかかわらず自分がメスを握ることに執着する教授もいた。
治療方針に関して異議を唱えると機嫌が悪くなる助教授も・・・。
そして、自分の社会的地位を利用して特別室を陣取り、特別扱いを要求する患者もいた。
程度の差はあるけれど、本質は何も変わらない。

この小説からはいろんなことを読み取ることができる。
医療のあり方や人間の生命の尊厳に思いを馳せるという味わうのもよし。
興味深い人間ドラマとして味わうのもよし。

ドイツ外遊のあたりがだらけている感じと
橋田須賀子的状況説明風会話文がちょっと気になるところ。