I'm sorry,mama.

I'm sorry,mama.

人間の醜悪さをこれでもかこれでもかと見せ付けられるような小説。
主人公のアイ子は娼館に産み捨てられた子どもで娼婦達から足蹴にされて育ち、悪意だけを生きる糧にしてきた女。その人生はすさまじく、次から次へと悪事に手を染めていく。
とにかく出てくる人物がもうキモチワルイ人間ばっかり。児童福祉施設の保母時代に贔屓していた25歳年下の男の子と結婚した女、その25歳年下のオットは40代になった今も妻に対して赤ちゃんごっこをおねだりする。他人の家の中に拾った箸で家を作って住みつく脂ぎった顔の男、ホテル住まいのクセにけちで法螺ばかり吹いている老婆、ホテルを経営するヒステリックな女社長。
私がこうして書くと「あぁそうなの?」って感じだけれど、桐野夏生の描写は容赦がないから性質が悪いのだ。それでも最後まで一気読みさせられてしまう。その醜悪としか言い様のない人物達から目が離せなくなってしまう。そして後味は悪いにもかかわらず、充分楽しんだと思えるのだ。なんなんだろう、この現象は。
まぁ、そうは言っても「グロテスク」から桐野作品に触れるようになったものから言わせてもらえばこの作品は物足りなく感じる。もちろん一定のクオリティは保っているけれど、少し登場人物たちの背景を書き込みすぎたんじゃないかと思う。特に中盤のホテルの女社長の家庭事情なんかはただの通過点にしては濃すぎる気がする。濃いエピソードが放り出されたようでちょっと物足りない。大体そのホテルの周辺の人物だけで小説一作書けそうだもの。