赤い長靴

赤い長靴

結婚10年目の子供のいない夫婦である日和子と逍三の日々を描いた連作短編集。

ものすごく危うい。夫は妻の話を聞かない。それでも話しつづける妻。時々泣きたくなるのに、つい笑ってしまう妻。それでも、お互い、相手のことを「気に入ってい」て「会いたい」と思い、外に出れば早く相手の元に帰りたいと思う。

なんだろうな、こんな夫婦ありえないと思う反面、じくじくとわたしの中の傷が痛む感じがする。日和子が結婚してから自分は「でくのぼう」になってしまったと感じたり、もう夜は味方ではないと思うところ、逍三が帰ると空気がかき乱される、そのことをわずらわしく思う気持ちと幸せだと思う気持ち。逍三が感じる、周囲と自分の間にある膜。それらは私も感じたことがある。「結婚している」というのはこういうことなのかと思ったこともある。安心で幸福なのに寂しく所在無い感じ。私はそれになかなか慣れることが出来なかった。子供ができていなかったら、もしかしたら今でも慣れなていなかったかもしれない。もしかしたら日和子と逍三のような夫婦になっていたかもしれない。絶対にそんなことはないとは言い切れない。そんな薄ら寒さを感じつつも、なんとなく幸福な空気を感じた不思議な作品。

日和子にとって「赤い長靴」は逍ちゃんそのもの、ひいては結婚生活そのものなのかもしれないな。