夜愁

夜愁〈上〉 (創元推理文庫)

夜愁〈上〉 (創元推理文庫)

夜愁〈下〉 (創元推理文庫)

夜愁〈下〉 (創元推理文庫)

「半身」「茨の城」が、このミスの海外部門の第一位になったことで有名になったサラ・ウォーターズ。2作は未読なのですが、ずっと気になっていた作家だったので読んでみました。ミステリだと思っていたのですが、エンタメではなく文藝色の強い作品でした。

ネタバレ危険!


一章の舞台は1947年。第二次世界大戦後のロンドン。戦争の爪あとの残る中で逞しく生きている人たち。風変わりなレオナード氏の館の屋根裏部屋に住むケイ、結婚紹介所で働くヴィヴィとヘレン。ヘレンの恋人で作家のジュリア。ヴィヴィの恋人はレジーという妻子のある男性。ヴィヴィの弟ダンカンはかつて刑務所に入っていた過去があり、現在はマンディ氏と暮らしている。マンディ氏は叔父ということになっているが、本当の叔父ではない。ダンカンの職場に取材にやってくるフレイザーは刑務所で同じ房に入っていた友人。それぞれが人には言えない秘密を抱えながら生きている。それを読むことはとても息苦しく重苦しい気持ちにさせられるが、読むことをやめることが出来ない。
ストーリーは1944年、1941年と年代をさかのぼって進んでいく。そこで登場人物たちが現在(1947年)の状況にいたった経過と彼らの秘密が明かされていく。戦時中という生き難い時代にさらに生き難い状況に生きる人たち。そんな世界の闇と心の闇が重厚な筆致で描かれていく。前半と同じく、彼らの状況は辛いのだが、読者は彼らの秘密、彼らの謎が明かされていくのに下世話な興味を抱き、どんどん読み進めてしまう。
そしてラスト。この小説の中で最も美しいと思われる場面で突然に終わる。唖然としつつも、このラストの状況から冒頭の状況に陥っていくのか!という驚き。そしてもう一度最初からこの小説を読み始めてしまう。だけど、そこに救いはない。現在(1947年)の彼らは「それぞれが人には言えない秘密を抱えながら生きている」のだから。