生まれる森

生まれる森

あぁ、もうこれで島本理生作品はみんな読み終わってしまったよ。ちょっと寂しいなぁ。
私が島本理生ちゃんを贔屓しているのはその作品世界が好きだというのはもちろんなんだけれども、自分で見つけた作家だというのがとても大きいと思う。「自分で見つけた」って編集者でもないのにおかしいんだけど。彼女がまだ芥川賞候補になる前の段階で「シルエット」の単行本を書店で装丁買いして読んだのだ。「シルエット」はとても印象的で心を揺さぶられたので、それまで出したことのなかった愛読者カードに感想を書いて送った。そんなことも忘れていた明くる年のお正月、一通の手書きの年賀状が届いた。それが島本理生ちゃんからで、私の書いた感想を読んで嬉しかったという内容のことが書いてあった。それを見て、私はとても嬉しくて、「この人が小説を書きつづけていけるようにずっと応援しよう」と思ったんだ。我ながら「単純だなぁ」と思うけれど、今のところ彼女はそんな期待に答えるかのように順調にキャリアを積んでいるし、私は私で「私の作家を見る目もなかなかなのでは?」なんてこれまた単純な勘違いもさせてもらったりして、十分に楽しませてもらっているんだから、まぁいいよね。

ながーい前置きになっちゃいましたが、この「生まれる森」。「一度決壊して空っぽになった」ところから始まる関係。暗く深い森を出て新しい光に向けてゆっくりと歩いていこう。そんな優しい思いが詰まった作品。
ナラタージュ」を読んだ後では秀作っぽい感じもしてしまうのだけれど、私はこの作品、結構好きだな。彼女の持ち味は静かな中にも意志の強さを感じさせる文体だと思うので日常の機微を描いていくのに向いていると思う。「ナラタージュ」は充分に読者を意識した作品でエンターティメント性が高いんだけれども、その分作りこみの甘さや意図が見えてしまう気がする。彼女が小説を書く上でこだわりたい部分はそういうところじゃないんじゃないかと。うーん、文才がないので上手く書けませんが、要するにエンタメ路線より純文学路線でいって欲しいってことかな。