リトル・バイ・リトル

リトル・バイ・リトル

ほんのり明るく淡々と描かれた主人公ふみの世界は大きく変化することはない。
それでもふみの心の中では何かが確実に芽ばえては消えてゆく。
日常ってそういうものだと思う。

著者はあとがきにこう書いている。

この小説の中で主人公を取り巻く状況は少し困難なものかもしれない。
けれど、そういう状況に対抗できる唯一の手段は明るさではないかと思う。
大変なときにこそ笑っているべきだと、
笑うこと以上に人間を裕福に出来るものはないと、私は信じている。
ささやかな日常の中にたくさんの光を見つけ出せるような小説をこれからもずっと書いていけたらよいと思う。


これは本当にそういう小説だと思う。

正直なところ、この作品はデビュー作の「シルエット」に比べると物足りないと思った。
だけど読み終わった時、阪神大震災にあった時のことを思い出した。
私は身内を亡くしたとか家が倒壊したとかいう大きな被害にはあっていないけれど、
それなりにシビアだった状況の中でもあたたかい光を見つけることが出来た。
それは大変な思いをした記憶と共に確かに心に残っているのだ。