幻夜

幻夜

1995年、西宮。父の通夜の翌朝起きた未曾有の大地震。狂騒の中、男と女は出会った。美しく冷徹なヒロインと、彼女の意のままに動く男。女の過去に疑念を持つ刑事。あの『白夜行』の衝撃が蘇る!

白夜行」であえて書かなかった部分に焦点を当てたもうひとつの「白夜行」。ストーリーの流れはほとんど同じなのに、全く違った物語に仕上がっている。そしてどちらも読み始めるとやめられないほどの牽引力を持った物語だ。これほどのものを仕上げてしまう東野圭吾という作家はとてつもない力量の持ち主だと改めて思った。この作品だけを読んでいれば、間違いなく大絶賛しただろう。
でも「白夜行」の読者として「幻夜」を読んで、なんともやりきれない気持ちになってしまった。美冬にとって雅也は自分が生きていくための道具にしか過ぎなかった、雪穂にとっての亮司もそうだったのだろうか?いや、雪穂にとっての亮司は太陽だったはず。それとも私は雪穂という悪女に騙されたのだろうか。雪穂はもともと美冬のような女だったのか。そんなはずはない。雪穂は亮司という太陽を失い、真っ暗な闇の中を美冬としてひとりで歩きつづけているのだ。私はそう信じたい。