あなたに不利な証拠として

警官を志望する若きキャシーがマージョリーと出会ったとき、彼女の胸にはステーキナイフが深々と突き刺さっていた。何者かが彼女を刺し、レイプしたのだ。怯え、傷ついた彼女を慰めるキャシー。だが捜査を担当したロビロ刑事は、事件を彼女の自作自演と断じる。マージョリーに友情めいた気持ちを抱いていたキャシーだったが、どうすることも出来なかった。それから六年後、キャシーとマージョリー、そしてロビロの運命が再び交わるまでは…MWA賞最優秀短篇賞受賞の「傷痕」をはじめ、男性社会の警察機構で生きる女性たちを描く十篇を収録。アメリ探偵作家クラブ賞最優秀短篇賞受賞。

すごい作品を読んでしまった。読み終わって半日以上経つけれど、まだ余韻に浸っている。再度ページをめくり、そこに描かれる警察官として働く女性たちの人生に思いをはせる。

銃を所持していた男を射殺してしまったキャサリン、事故で退職することを余儀なくされたリズ、父親の風変わりな愛情と結びついた銃への愛着から自由になることが出来ないモナ、ひとつの事件にかかわったことから永久に消えない傷痕を持つことになったキャシー、過ちを犯た自分を許すことが出来ず、苦しむサラ。

生身の人間が警察官としてきわめて困難な職務につく、その現実が活字を通して私の体にも伝わってくるようだった。腰や腕にこすれる銃、重いガンベルト、「何かがおかしい」と思われる部屋に踏み込むときの緊張、死臭、そういったものを私もふと感じたのだ。そのくらいにリアルで圧倒的な描写、そして丹念に描かれる女性たちの心理。私もここに出てくる女性たちと一緒に緊張し、おびえ、怒り、悩む。叫びだしたくなるくらいに緊張感のある読書だった。最後には癒しにつながるストーリーも用意されているけれど、そこに手加減はまったくない。癒しを得るためには、彼女たちが、これからさらに自分自身に向き合わなければならないからだ。それはもしかしたら、警察官の職務よりもつらくて苦しいことかもしれないのだ。