体温

体温

体温

荒川洋治さんの「文芸時評という感想」でふれられていた「焚き火」という短編が読みたくて。多田尋子さんという作家のことは全く知らなかったんだけれど、何度か芥川賞の候補になられているらしい。96回から105回あたり(昭和62年から平成3年)。1932年生まれ。うちの母親と同年齢だ。小説家デビューは遅かったんだね。最近の情報は全然わからないんだけど、どうされているのかな。

で、「体温」。4本の短編が載っているけど、どれもしみじみと良かった。共通するのは、流されているようで柳のようにしなやかに強い女性像。

「やさしい男」
精神を病んだことで離婚にいたった妻をいつまでも見舞う男。その男のやさしさに惹かれて結婚した若い妻。誰にでもやさしい男は本当は薄情なのかも。

「焚き火」
妻子のいる男性との、ほのかな恋心のやりとりを人生の喜びにしている女。温かな心の交流に幸せな気持ちになる。でも、オットにこんな相手がいることがわかったら、ものすごくイヤ(笑)。

「オンドルのある家」
銀行の頭取に囲われている母親とその姉である叔母との奇妙な暮らしをする娘が母の年齢に達するまでのストーリー。周りの状況に流され続けつつも生き抜いている。実はこんな女性が一番強いのかも。

「体温」
夫を亡くした女。子供と二人生きていく覚悟をしたときにそっと現れる夫の友人だった男。戸惑いながらも心を通わせていく二人。その感じがいやらしくなく自然で好ましい。