[ヤスミン・クラウザー]サフラン・キッチン

サフラン・キッチン (新潮クレスト・ブックス)

サフラン・キッチン (新潮クレスト・ブックス)

マリアムには娘も知らない過去があった。イランの都市マシャドの邸宅に要人の娘として生まれ、ある出来事をきっかけに、父によってイギリスへと送られたのだ。英国人青年を夫とし、平穏な家庭を築いてきたマリアム。だが40年を経て、かたく封印してきた懐かしくも忌まわしい過去を辿る旅に出る。遥かなる故郷と引き裂かれた恋人への思い。長い年月をともに過ごしながら残された夫の哀しみ。そして、揺れる母をみつめる娘のまなざし。イラン系英国人作家によるデビュー長篇

イマイチでした。簡単に言ってしまえば、格調高いハーレクインという感じ。もしくは格調高い「マディソン郡の橋」。
ちょっと内容に触れます


まず、主人公のマリアムという女性に魅力がない。魅力がない原因は彼女の過去にあるのだけれど、その過去も、結局それかよって感じ。もちろん同情は出来る。できるけれども、女性が傷つくといえばこれしかないのかなぁ・・・。これを切り札に出されると、主人公に絶対に同情しなくてはならなくなるんだよね。読者としても逃げ場がないっていうか。創作された物語の中での出来事であっても、こんな目にあった女性に同情しないなんて人間としてどうよと思っちゃうから、なんだかモヤモヤしてしまう。

そして、登場する人物がすべて主人公のために配置された人物であるということが気に入らない。故郷の恋人は40年もの間、結婚せずに主人公を待っているし、主人公が故郷のイランで過ごした年数よりも遥かに長い40年をともに過ごした夫はあまりにも物分りが良すぎるし、自分の父親をないがしろにされ、間接的にとはいえ流産させられた娘もこんなに簡単に母親を許せるものだろうか。私だったら肉親であるがゆえに許せないと思う。もしかしたら、この主人公がもっと魅力のある女性だったら、ご都合主義が過ぎるこのようなストーリーも受け入れることが出来たのかもしれない。でも、この主人公には魅力がないのだ!

それでも何とか読んだのは文章がとても美しいから。イランでの主人公の少女時代の記述はとても色鮮やかで、若さにあふれ機知に富んだちょっと生意気な女の子の様子、男尊女卑の国での生きづらい現状、イギリスの重々しい空気、そんなものが目に浮かぶようで素晴らしい。格調高く、生き生きとした記述にはふさわしくない陳腐なストーリーがこの本の値打ちを下げていると思う。