カブールの燕たち

カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット)

カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット)

早川書房のモニターに応募して簡易版を読んでいたのだけれど、完成品も読みたくて読んでみた。訳文もこなれて読みやすくなっていたし解説もついていたので読んでよかった。エンターティメント性はまったくないのに、ぐいぐいと引き込まれて読んでしまう。完成された読ませる文章。
タリバン支配下のカブールは強制された思想と暴力に満たされ、人々は希望も光もないところで必死に生きている。精神は荒廃しきってしまう。重くて息苦しくて辛い。そんな過酷な状況の中でそこから抜け出そうと葛藤を続ける人々。その状況がまるで見てきたかのように鮮明に思い浮かぶ。TVで映像付のニュースを見ても感覚として伝わってこなかったカブールの人たちの存在が私の脳内にくっきりと姿を現した。文学というのは恐ろしくすばらしいものだと思う。
モニター版で読んだときには「カブールの燕たち」という題名がしっくり来なかった。日本人が思い描く燕とはずいぶんかけ離れているように感じたから。でも完成版の表紙を見て納得。チャドリを着、体を小さくして歩く女性の後姿は燕にそっくりなのだ。皆が燕のようにあたたかいところへ飛び立てる日が来ますように。