ピュタゴラスの旅

ピュタゴラスの旅 (講談社文庫)

ピュタゴラスの旅 (講談社文庫)

初期の短編集。なんと古代ギリシアものが入っています。酒見さんは博識でめちゃくちゃ引き出しの多い人なのだ。そして文章がすごくうまい。首をかしげるような危うさがまったくないので、安心して物語の中に入っていける。文体が小説の邪魔をしないとでも言ったらいいのだろうか。

物語の中に入っていけるといったけれど、それにはちょっと語弊もあって、小説の世界と作者と読み手の位置がごっちゃになるというか、三者がすべて物語の中に入っているようなそうでないような、現実と小説世界との境界線が良くわからなくなるような実験的な作品もある。それが「語り手の事情」だと思うのだけれど、その習作ともいえるような作品がこちらに入っている「そしてすべて目に見えないもの」かなと思った。この作品もとても面白いのだけれど、「語り手の事情」はその何倍も面白くなっているから、超協力お薦めです。

で、ギリシアもののほうは哲学的ともいえる作品なのだけれど、酒見節というか、どこか人を食ったようなユーモラスな雰囲気があってさわやかな作品になっていると思う。