愚行録

愚行録

愚行録

一家を惨殺した≪怪物≫はどこに潜んでいたのか? さまざまな証言を通して浮かび上がる家族の肖像、そして人間たちの愚行のカタログ。痛切にして哀切な、『慟哭』『プリズム』を凌駕する著者の真骨頂的作品、ついに登場!

一家惨殺事件と児童虐待をモチーフにしたミステリ。被害者となった家族に関するさまざまな証言と虐待を受けていた妹の兄への語りが平行して進んでいく。最後にはこの二つが絡まりあって事の真相がわかる仕組みになっているが、オチはちょっと弱い。児童虐待の描写が類型的で、あまり感情を揺さぶられないのも原因のひとつかもしれない。事の真相を知ったときには物悲しさは感じるのだけれど。慶応大学がモチーフに使われているところから桐野夏生の「グロテスク」を思い浮かべたが、こちらのほうがオチが弱い分、よりリアルだ。「グロテスク」はフィクションの中のリアルだから。現実ってこんなものかも。陳腐なもの。話がそれた。
さまざまな証言を読み進めていくうちに、ある夫婦の虚像が自分の中にも出来上がっていくのはとても面白かった。その夫婦も証言する人間たちも愚かだと思いつつ、この完璧に思えた夫婦の評判を貶めるようなゴシップをもっと聞きたいと思っている自分に気がつき、非常に嫌な気持ちになる。女性週刊誌やワイドショーのゴシップに熱中してしまった自分に気がついたときのような不快感だ。この本の読者は自分の行いも含めた「愚行録」を読むことになるのだろう。